司法修習新第64期の皆さまへ

司法修習新第64期の皆さま、修習修了10周年誠におめでとうございます。

5月下旬に熱海で行われる記念行事のご盛会を心よりお祈り申し上げます。

新64期A班25組(大阪・和歌山)、同B班7組(名古屋・福井・富山)を受け持った民事弁護教官として、お招きいただいた記念式典に出席するつもりでした。

ギリギリまで予定を入れず体を空けていましたが、残念ながら出席することができません。

記念行事の当日は関係者と入念な打ち合わせを行ったのち、翌日から北海道に飛んで現地調査を行うことになってしまいました。

晴れの舞台に参加できなくなったことを誠に残念に思うとともに、深くお詫びいたします。

皆さんはこの10年間で急成長を遂げておられ、すでに裁判官・検察官・弁護士(インハウスロイヤーを含む)・学者などとして、相応の経験と貫禄を身につけておられます。

ただ、「元教官」という名の20年先輩として、3つばかりメッセージを送らせて下さい。

いわゆる還暦ジジイのたわごとです。

 

<その1:常に初心を保ち学び続けてください>

法曹を10年経験すると、よく似た類型の事件と再び三度巡り会います。

「またアレか」と舐めてかかり、油断し、右から左に流そうとすると、大きな落とし穴に嵌ってしまいます。

人が違い、場所が違い、時期が違うと、一見同じように見えても実は全く別の事件です(二つとして同じ事件はあり得ません)。

常に初心で向き合い、関係者と十分に対話し、証拠を舐めるように見て、周辺を徹底的に調べ尽くすなどして真摯に「その事件」に取り組んでください。

手抜きをすると必ずどこかで失敗しますし、その法曹の伸びは止まってしまいます。

 

<その2:人と自分を比べないでください>

同期の仲間と出会うと、「自分はこんな大きな事件を受任した」とか、「また新人弁護士を雇い入れた」とかと吹聴する者がいます。

それを聴くと羨ましく思い、自分もそうなりたいと競争心を燃やし、ついつい余計なことを考えてしまいがちです(それが人間の弱さです)。

しかし同期の吹聴など無視すべきノイズです。

目先の事件に絶えずしっかり向き合い、手編みでセーターを紡ぐかのように丁寧な事件処理をし続けることこそ、「急がば回れ」の道だと思います。

人と自分とを比べず、地に足を着け、いや地を這うように地道な匍匐前進を続けることこそが吉。

弁護士の「弁」は「辯」と書き、「辛」い「辛」いと「言」いながらそれに幸せを感じて行ってゆく仕事です。

また弁護士は「便後紙」と書き、トイレットペーパーのように人の尻拭いをすることが仕事・・・、決して華やかなものではありません。

矜持を持ち、自分に人に誇れる仕事をしていれば十分。

生きてゆくために必要な額を超えた金を稼ぐ必要はありませんし、無理をして事務所をデカくする必要もありません。

 

<その3:困った人を救うにはまず自分を救ってください>

困った人に寄り添い、その人を泥沼から救出するにはかなりのエネルギーが必要です。

救う人のエネルギーレベルが低ければ、一緒に暗黒面に引き込まれてしまい、困った人を上手く救うことができません。

法曹として十分なパフォーマンスを発揮するには、常に自分自身の心と身体のストレッチを続け、最高のコンディションを維持する必要があります。

気が置けない友人たちと語り合ったり、仕事以外で地域社会と関わりお役に立ったり、とことん打ち込むことができる趣味を持ったりすることをお勧めします。

誰のことかは分かりませんが、例えば地層を愛でたり、化石を掘ったり、水路や暗渠を追跡したり、マンホールを撮影したりといった趣味を持つ人もいると聞きます。

多大なストレスに晒される仕事ですので、ご自身の心と身体の(心⇒身体という順番に意味を持たせています)メンテを続けて下さい。

 

また10年後、司法修習20周年の記念式典が行われるはずです。

そのときまだ私が生きていれば、ご招待ください。

20周年の記念式典の前に、クラスや有志の集まりなどがあれば喜んで参加いたします。

幸いなことに、和歌山にも、大阪にも、福井にも、富山にも白亜紀の地層が露出しているそうです。

しかも、和泉層群や手取層群の白亜紀地層からは、恐竜化石も採取されています(←それを見越して担当する修習地を選択したか否かについては黙秘します)。

最後に、10周年記念式典のご盛会と、新64期の皆さまのご多幸・ご健康そして益々のご活躍をお祈りしています。