相続人がいないとき故人の財産はどうなるか?

1月23日の朝日新聞朝刊1面に「相続人なき遺産、647億円が国庫入り 21年度過去最高」という記事が掲載された。よくポイントを押さえている記事だが、普通の方には分かりづらいところがある。そのため、相続人のいない方(「Aさん」と名づける)が亡くなった場合や、相続人がいても全員が相続放棄をした場合に、Aさんの財産はそのあとどうなってゆくのかについて、少しかみ砕いて説明してみたい。

① Aさんが亡くなった瞬間、その財産は法律の力によって自動的に「Aさん相続財産法人」という会社のようなモノ(=法人)になる。いわば、主のない資産と負債の「固まり」のようなもの。まだこの時点では「Aさん相続財産法人」が観念的に存在しているだけで、実際にこれを管理する人はいない。

② そのあと誰かが家庭裁判所に申し立てをすると、初めて相続財産管理人という管理人を選んでくれる。しかるべき弁護士などが選ばれてその職に就く。では、誰が家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てることができるのだろう?答えは「利害関係人」(=Aさんの債権者、Aさんの財産を遺言で貰った人、後述する特別縁故者に当たる人)と「検察官」。意外かもしれないが、検察官の仕事は刑事手続だけではない。

③ ちなみに、相続財産管理人の選任を申し立てるためにも、それなりのお金と手間ひまがかかる。だから、選んで貰うことについて何かメリットがある人でない限り、まず申立てなど行わない。申立てが行われない限り、主のない「固まり」はゴロンと転がった状態のままズルズルと放置されてしまう。例えばAさんが住んでいた家が残された場合。空き家のままだと何かと物騒だし、塀が崩れたり立木が伸びたりしてご近所に迷惑をかけてしまうこともある。有効活用しようにも、他人様のものだから手を付けることができない。それは自治体でも同じ。だから「空き家問題」が深刻化している。

④ 相続財産管理人が選ばれると、管理人は官報という政府の新聞に「公告」というものを出す。簡単に言うと、「Aさんの相続財産管理人に就任したぞ。Aさんの相続人さん。いないかもしれないけど、もしもいるのなら2ヶ月以内に名乗り出てよ!」とか、「Aさんに債権を持っている人やAさんの遺言で財産を貰った受遺者の人。6ヶ月以内に申し出をしてよ!」とかと呼びかける。こんな呼びかけを、たっぷり時間をかけて3回も行う。1年くらいかかる。だが、たいていの人は「官報」など見ていないし、そもそも「官報」という政府の新聞があることすら知らない。だから名乗り出てくる相続人など滅多にいない(ちなみに、戸籍を調べただけで、Aさんに相続人がいないと断定することはできない。例えば、Aさんが認知していない実の子どもがいるとき。Aさんの死後であってもAさんとの親子関係が証明されれば、Aさんの子として相続人になる)。だから官報で何度も呼びかけ、相続人を探したり相続債権者や受遺者を探す必要がある。ずっと前に一度相続財産管理人になったことがあったが、えらく時間と手間のかかる大変な仕事だった。

⑤ 上記④のように、手間と時間をかけて相続人を探しても現れなかった場合。初めてこの時点で、法的な意味で「Aさんに相続人はいない」ことが確定する。

⑥ 上記⑤で3回目の公告期間が満了し、相続人がいないことが確定したあと。そのときから3ヶ月以内に「私は特別縁故者です!」と申し出をする人が現れ、家庭裁判所が「イエス」と認めれば、Aさんの財産の全部または一部をその特別縁故者に与えることができる。特別縁故者と認めて貰う余地があるのは、相続人ではないものの、Aさんと生計を同じにしていた人や、献身的にAさんの療養看護に努めていた人などである。乏しい経験だが、幼いとき母を亡くした某社の社長(=私の依頼者)が、小学校時代の同級生(若くして亡くなった)のお母様を実の母のように慕い、自分の資産で老後の面倒までみたのちに見送ったケースで、家庭裁判所に特別縁故者と認めて貰ったことがあった。

⑦ こんな大変な手続を行っても、相続人も、相続債権者・受遺者も、特別縁故者もいないことが確定したとき。Aさんの財産は「国庫に帰属する」ことになる。コッコ、つまりニワトリに帰属するのではない。お国の金庫、つまり日本という国の物になるという意味である。

ご自身に相続人がいない場合。「あの世まで財産を持ってゆくことはできない。自分が死んだあとのことなど、ど~でもええわい!」と思うかもしれない。だが、それでは「空き家」問題を作り出したり、親しくお付き合いしてきたご近所の方々にご迷惑をかけたり、相続財産管理人などの手を煩わせてしまったりすることになる。こんな事態を防ぐにはどうすれば良いのか?新聞に登場した行政書士は「遺言書を作るべきだ」と言っている。たしかに遺言書を作ることで、自分の死後に相続人でない者に財産を引継いで貰うことができる。だが、「遺言書を作るべきだ」というだけでは中途半端である。例えば、Aさんから遺言書で財産を貰った人は、相続税を支払う必要があるかもしれない(赤の他人が財産を貰うと、相続人が貰うよりも相続税率が高い)。また、遺言書で「○○団体に寄付する」と勝手に書いても、事前の調整なくいきなり寄付されてしまっては、あげると言われた側が困り果ててしまうこともある。そのため、遺言書を作る場合、どのような相手に、いかなる内容でどの財産を渡し、その際の税金問題をどのようにケアするのか・・・などなど。ここまで考えておく必要がある。しっかり備えをしておかないと、自らの死後になって、親しかった方々に迷惑をおかけすることにもなりかねない。以上、できるだけ分かりやすく説明を試みた。(写真は、1/22に母ちゃんと散歩したとき。高円寺駅の近くにある「長仙寺」(真言宗豊山派)の境内で見た梅の花)。