相続登記の義務化について(その2)

2025年1月26日付けのブログで、相続登記の義務化について、そのポイントを箇条書き的に整理した。

その後も市役所の法律相談を担当したときなど、相談者からあれこれ尋ねられることがある。

関心が高いテーマであるので、続編として、前回は触れていない点を追加しておく。

 

【相続登記の義務化の根拠条文】

不動産登記法76条の2第1項&2項で義務を定め、164条1項で義務を怠ったときの制裁(10万円以下の過料)を定めている。

 

【条文の紹介】

1項: 「所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。」

2項: 「前項前段の規定による登記(民法第900条及び第901条の規定により算定した相続分に応じてされたものに限る。次条第四項において同じ。)がされた後に遺産の分割があったときは、当該遺産の分割によって当該相続分を超えて所有権を取得した者は、当該遺産の分割の日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。」

 

【1項前段の分かりやすい(?)解説】

・ 亡くなった人(被相続人)が死亡した日からカウントし、3年以内に登記を申請せよと言うのではない。

・ ①自己のために相続の開始があったことを知(るとともに)、②亡くなった人が不動産を所有していたことを知った日(=つまりダブルで知った日)からカウントして、3年以内に登記を申請せよと言う意味である。

<分かりやすい(?)解説>

・ 父と母が幼いころ離婚し、その子供Xさんは長く父親と疎遠になっていたとする。そして父親が2023年1月31日に亡くなったとする。子供Xさんは父親の第1順位の相続人であるから、父親が亡くなった2023年1月31日に父親の遺産(プラスとマイナスの両方)を相続する。父親の死亡を知らなくても相続するのである。それは、父親が死亡時に持っている遺産を、時間的な隙間なく相続人に引き継がせるためであり、民法という法律でそう決めている。こうして子供Xさんは2023年1月31日に父親の遺産を相続したのだが、疎遠であったため父親が亡くなったことを長く知らなかった。子供Xさんが初めて父親が亡くなった事実を知ったのは、2年後である2025年1月31日だったとする。この日が子供Xさんにとって、1項が定める「自己のために相続の開始があったことを知(った日)」ということになる。

・ だが、子供Xさんが父親の死亡(その遺産を自分が相続したこと)を知っただけでは、まだ相続登記の申請義務を負担していない。

・ その後子供Xさんは、2025年3月31日、父親の再婚相手である女性と電話でやり取りした。するとその女性から「いま生活している土地と建物は、亡くなった貴方の父親の所有です」と初めて聞かされた。これによって子供Xさんは、亡くなった父親が不動産を所有しており、自分がその不動産を相続したという事実を知ったことになる。これが、1項が定める「当該所有権を取得したことを知った日」ということになる。

・ まとめると、①被相続人が死亡してその遺産を自分が相続したと知り、かつ、②その被相続人が不動産を所有していたと知った日に、3年以内の登記義務が生じることになる。

・ 法律相談を担当しているとき、「父が亡くなった日から3年以内に登記しなければならないのですか」という形で質問される。これに対して私は、「いいえ違います。貴方が亡くなった方の遺産を相続した事実を知り、かつ、亡くなった方が不動産を所有しておられた事実を知った日に初めてストップウォッチが押されます。これが起算日であり、そこから3年以内に相続登記の申請をなされば良いのです」と回答している。

 

【登記義務が発生して3年が過ぎた瞬間に制裁が降ってくるのか】

そうではない。制裁までに次の流れを辿る。いきなり過料の制裁が降ってくるのではない。

①法務局の登記官が「相続登記の申請義務の違反があるぞ」と把握する ⇒ ②相続人を突き止めて「義務を履行して下さい」と催告する ⇒ ③催促されたのに、正当な理由もなく義務を履行しない ⇒ ④登記官は裁判所に過料事件を通知する ⇒ ⑤裁判所は要件を満たすかどうか慎重に審査したうえ過料の判断を下す

 

【例外として過料の制裁を受けない「正当な理由」の例】

① 相続人の数が極めて多数であり、戸籍関係書類を集めて他の相続人を突き止めるために多くの時間が必要な場合

② 相続について、相続人の間などで遺言の効力や遺産の範囲などに争いがあり、誰がその不動産の所有者になったのかがはっきり決まっていない場合

③ 相続登記の義務を負う者が、重い病気に罹っている場合

④ 相続登記の義務を負う者がDV被害者であり、相続登記をするとDV加害者に居場所がバレてしまって生命や心身に危害を加えられるおそれがある場合

⑤ 相続登記の義務を負う者が経済的に困窮しており、登記の申請を行うための費用を負担できない場合

 

 

 

 

 

ずいぶん前。

六角地蔵様の祠の右隣に、とても古い木造アパートが建っていた(建て替えられて綺麗なアパートになっている)。

地蔵様に手を合せていたとき、アパートの窓がいきなり開いて高齢の女性が顔を出した。

「この地蔵様は特に子供たちに優しい。あんたにも子供がいるのなら、元気に育つよう前を通るときはお参りを欠かさぬように」と教わった。

それ以来、この六角地蔵様の前を通るとき、必ず心の中で地蔵様に話しかけている。

とても不思議なのは、ワイヤレス・イヤフォンで音楽を聴きながらお参りを忘れて地蔵様の前を通り過ぎようとしたとき。

必ず音が途切れたり、ガガガとノイズが入ったりする。

「あっ、地蔵様へのお参りを忘れた。済みません、失礼をお許し下さい」と地蔵様にお詫びする。

双方向で会話のできる不思議な地蔵様である。