強制不妊手術事案に関する最高裁判所大法廷判決のザックリ説明

最高裁判所大法廷は、令和6年7月3日午後3時、旧優生保護法に基づく強制不妊手術事案について重要な判決を言い渡した。
だが一般の方々にはピンとこないだろう、何の裁判なのかよく分からないだろうから。
法学担当の講師をしている防衛省防衛医科大学校(看護学科)で講義をしたとき、100名以上の学生たちにこの事案のことを尋ねてみた。
だが、ボンヤリとでも理解している学生は一人もいなかった。
最高裁判所大法廷で弁論が開かれた翌日の出来事である。
幸福追求権や自己決定権という重要な憲法上の権利と侵害の問題であり、もちろん「生命」などとも深く関わっている。
ほどなく医療従事者になる者たちにも知っておいて貰いたい、そう思ってザックリ説明を行った。
その要約と本日の判決を以下にお示ししておく。
かつて優生保護法という法律があった。
終戦直後の1948年に施行された。
後世に「悪い種」を残すべきでない。
知的障害者などの種は「悪い種」だ。
本人の同意なくても強制的に断種しよう!これを認めた法律が優生保護法。
背後に食糧事情の悪さなどもあったようだ。
実際に多くの知的障害者などが同意なく子宮や精巣を摘出されるなどして強制不妊手術を受けさせられた。
また形のうえでは同意しても、騙されて同意させられて手術を受けた者もたくさんいたと言われている。
人から子供を持つ権利を無理やり奪うというむごい措置。
9歳や10歳などの幼い子供にまで強制不妊手術が行われたとも言われている。
難しく言うと幸福追求権や自己決定権を侵害する法律。
第二次世界大戦のあとに施行された法律でありながら、ナチス的なニオイまでする。
驚くべきは、この法律が改正されて母体保護法に生まれ変わったのが平成8年だという事実。
平成の時代まで優生保護法は生きていた。
この手術を15歳のとき受けさせられた東北の女性。
おかしい、絶対におかしい!・・・ずっと時間が経ったころそう思い、意を決して国を相手に裁判を起こした。
国家賠償請求訴訟という名前の裁判。
国家賠償法4条は、詳しくは民法に飛べと言っている。
そして飛んだ先の改正前民法では、加害者が被害者に悪いこと(不法行為)をしても、不法行為のときから20年間被害者が損害賠償請求をしなかったとき。
例え被害者が被害を受けたと気づいていない期間があったとしても、形式的に20年経ってしまったら一律にアウト!と定めていた。
これが「除斥期間の壁」というヤツ。
上記の裁判を起こした東北女性のケースも、手術のときから20年以上が過ぎていた。
分厚い壁を破らない限り、この東北女性の損害賠償請求は認められない。
この裁判をきっかけに、全国あちこちで同種の裁判が起こされた。
多くの高等裁判所は、様々な理屈を展開し、請求した側(手術された側)を勝訴させた。
だが仙台高等裁判所は「除斥期間は除斥期間だ。明文規定の定めだ。法的な安定性を図るという趣旨を考えると、どうしても穴を開けることはできない。旧優生保護法は憲法違反だが、さりとて国から損害賠償を受けることはできない」といった理由で請求を退けた。
このように、同種の事案でありながら、地・高等裁判所の判断が割れた。
統一的な判断を示す必要がある。
そこで仙台高裁の上告審である最高裁判所は大法廷に回し、15人全員の裁判官で評議して判断を示すことにした。
このようないきさつで、最高裁判所大法廷で判決が言い渡された。
要点は次のとおり。
① 旧優生保護法は憲法に違反する。
② 上告人の請求は、改正前民法724条の除斥期間によっては排斥されない。仙台高等裁判所が言い渡した原判決を破棄して同裁判所に審理を差し戻す。これから上告人の損害の有無や数額について審理し、終局的な判断を下すように。
③ なお、除斥期間を適用しないとした理由は「?????」である(←マスコミはまだ報じていない。近く最高裁HPに判決書の全文が公表される筈だから、判決文を読み込むことで?を解明する)。
たくさん学ぶところのある事案と判決。
だが関心を持つ方は多くないだろう。
そう思ったので、正確さなどを大幅に犠牲にし、分かりやすさにウエイトを置き、ザックリ説明するとこんな感じになった。